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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)1879号 判決

原告

アラン・フレビカこと

吉松敏宏

被告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

芥川也寸志

右訴訟代理人

井上準一郎

新井旦幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  原告は、原告の作品集である「アラン・フレビカ作品集No.1」、「同No.2」、「同No.3」に収録されている音楽著作物(以下、「原告音楽著作物」という。)の著作者であり、著作権者である。

(二)  右「アラン・フレビカ作品集No.1」は、昭和四六年八月三一日、原告により出版され、都内近県約三八〇の社交場に出演する演奏家に対し約三八〇部、更に都内有名楽器店において三一部、原告の主催するフレビカ音楽院においても約一八〇部販売され、また「アラン・フレビカ作品集No.2」は、昭和五四年五月、原告により出版され、社交場に出演する演奏家に約二〇部贈与又は販売された。

そして、原告の音楽著作物は原告の前記作品集を取得した演奏家によつて全国の社交場において生演奏されており、これにより、原告は、原告音楽著作物が生演奏された社交場営業者に対し、著作物使用料請求権を取得した。

(三)  原告は、昭和三八年九月一日から昭和五六年六月二九日までの間、新宿の「淀」ほか、少なくとも二八五の社交場において、自ら演奏家として出演した際、別表記載の演奏頻度で、原告音楽著作物を演奏し、これにより、原告は、当該社交場の営業者に対し原告音楽著作物の使用料請求権を取得した。

2(一)  被告は、被告が「我が国で使用されるほとんどすべての音楽について管理している」旨を全国の社交場営業者に対し表示している。

(二)  被告の右表示は事実に反するものであり、社交場営業者を欺罔するものである。すなわち、被告が右表示をする以上は、被告が我が国で使用されるすべての音楽(我が国において現在著作権の存するものも存しないものも含む。)の99.9パーセント以上を管理していなければならないものであるところ、我が国で使用されている音楽のうち、著作権管理業務の性質上無視しえない使用頻度を有する音楽で被告が管理していないものは多教(少なくとも六九七曲以上)存するのであり、曲数にその使用頻度を考慮してみると、我が国で使用されている音楽全体のうち少なくとも一〇パーセント以上は被告の管理外のものといえる。

したがつて、被告は現在およそ二〇〇万曲に達する音楽を管理してはいるものの、現実に社交場で使用される音楽のほとんどすべてを管理しているものではない。

3  被告は、前記2記載のように我が国で使用されるほとんどすべての音楽を管理しているとはいえないにも拘らずほとんどすべての音楽を管理している旨表示し全国の社交場営業者を欺罔して、原告が本来徴収しうべき前記1(二)、(三)記載の社交場営業者に対する原告音楽著作物の使用料を当該社交場営業者から騙取、横領している。

4  被告が、前記2記載のように我が国で使用されるほとんどすべての音楽を管理しているとはいえないにも拘らずほとんどすべての音楽を管理している旨表示し全国の社交場営業者を欺罔して、現実に音楽著作物の使用料を徴収しているため、原告が1(二)、(三)記載の原告の音楽著作物使用料請求権を有する社交場において、被告とは別個に原告の右使用料請求権に基づく使用料を社交場営業者から徴収することは事実上不可能になつているものであり、原告は、被告の右違法な著作物使用料徴収活動により、原告自らの著作物使用料の徴収活動を妨害されている。

5  昭和五四年(ワ)第一八七九号事件においてその賠償を求める原告の損害

(一) 昭和三八年九月一日より昭和五六年三月三一日までの期間、原告が出演した社交場において原告自ら演奏した原告音楽著作物の使用料を被告が騙取、横領したことにより、原告が被つた損害の額は二〇〇万円である。

(二) 昭和三八年九月一日より昭和五六年三月三一日までの期間、原告以外の演奏家によつて原告音楽著作物が日本全国の社交場で演奏されたことによつて生じた原告の著作物使用料を被告が騙取、横領したことにより、原告が被つた損害の額は八〇〇万円である。

(三) 昭和四六年九月一日より昭和五六年三月三一日までの期間(一一五か月)、原告が原告音楽著作物を演奏した二〇〇店舗の社交場において、被告が原告の著作物使用料徴収活動を妨害したことによる損害の額は、次のとおりである。

社交場営業者の音楽著作物の一か月の平均使用料は五万円であり、原告音楽著作物の使用頻度は全体の五パーセントであるから五万円に一〇〇分の五を乗じて得られる二五〇〇円が、原告が一社交場営業者から徴収しうる一か月の原告音楽著作物の平均使用料であり、右二五〇〇円に社交場の数二〇〇を乗じ、更に前記期間の一一五(か月)を乗じた金額である五七五〇万円が原告が被つた損害の額となる。

(四) 被告の前記3、4記載の不法行為により、原告が被つた社会的、経済的、精神的損害は甚大であり、これを慰藉するには少なくとも一〇〇〇万円を要する。

(五) よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として前記損害金七七五〇万円の内金二四〇万円の支払を求める。

6  昭和五五年(ワ)第二六六二号事件においてその賠償を求める原告の損害

(一) 昭和四六年九月一日より昭和五六年三月三一日までの期間、日本全国三〇〇〇店舗の社交場において、被告が原告の著作物使用料徴収活動を妨害したことによる損害の額は、次のとおりである。

社交場営業者の音楽著作物の一か月の平均使用料は二万円であり、原告音楽著作物の使用頻度は全体の一〇パーセントであるから、二万円に一〇〇分の一〇を乗じて得られる二〇〇〇円が原告が一社交場営業者から徴収しうる一か月の原告音楽著作物の平均使用料であり、右二〇〇〇円に社交場の数三〇〇〇を乗じ、更に前記期間一一五(か月)を乗じた金額である六億九〇〇〇万円が原告が被つた損害の額となる。

(二) よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として前記損害金六億九〇〇〇万円の内金一〇〇万円(ただし、前記5の請求と重複しない部分)の支払を求める。〈以下、事実省略〉

理由

一被告が、「我が国で使用されるほとんどすべての音楽について管理している」旨を全国の社交場営業者に対し表示していることは当事者間に争いがない。

原告は、請求の原因2ないし4において、被告の右表示は事実に反するものであり、被告が右表示をすることにより全国の社交場営業者を欺罔して同営業者から原告音楽著作物の使用料を騙取、横領している旨、また原告の右使用料の徴収活動を妨害している旨主張するが、本件全証拠によつても、右原告主張事実はこれを認めることはできない。かえつて、〈証拠〉によれば、被告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」第二条の規定に基づきその業務実施につき文化庁長官の許可を受けた我が国唯一の音楽著作権仲介団体であり、音楽著作物につきその著作権者との間で著作権信託契約を締結し、また外国著作権団体との間で著作権管理契約を締結し、これらの契約によつて管理を委託された音楽著作物につき、我が国における各種分野の利用者に対し使用許諾をし、その使用料を徴収してこれを各著作権者に分配する業務を行つているものであること、被告が現在管理している楽曲数は約二〇〇万曲に達していること(この点は当事者間に争いがない。)、被告が前記表示をしているのは、被告発行の業務案内用広告文書等において、被告が管理している音楽著作物について使用許諾契約の締結を誘引し、もつて音楽著作権の合法的利用を促進するため、被告の業務内容を紹介するに際し、その管理する音楽著作物の数を概括的に示すためにされているのであることが認められ、この事実に照らせば、被告の右表示は被告の業務案内用広告文書等の文言として妥当であると認められ、右表示が事実に反し社交場営業者を欺罔するものということは到底できず、被告が右表示をなしてその管理する音楽著作物について我が国における利用者に対し使用許諾をし、使用許諾をした利用者からその使用料を徴収することは、何ら原告音楽著作物の使用料を横領するものとはいえないし、原告音楽著作物の使用料徴収活動を妨害するものということもできない。原告の前記主張は採用しない。

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。〈以下、省略〉

(牧野利秋 清水篤 設楽隆一)

別表〈省略〉

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